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2ストローク機関

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2ストローク機関(ツーストロークきかん、 Two-stroke engine )は略して2ストともいい、動作周期の間に2つの行程を経るレシプロエンジン(ピストンを利用した往復運動による内燃機関)の一種。2サイクル機関(その略称として2スト)や2工程機関とも呼ばれる。

目次

概要

定義

2ストロークエンジンは1往復(工程換算2回 (=2stroke) )で1行程が完結するエンジンで、ピストン1往復ごとに燃料が点火される。

一般に「2サイクルエンジン」と呼ばれることが多いが、「サイクル」では各行程段階を正確に指すことにはならないため、「2ストローク1サイクル」と呼ぶ方が正しい。

内燃機関の類型は一般的なものから、4ストローク、2ストローク、ヴァンケル・ロータリーに大別できる。

2ストロークエンジンの行程

image:Image:Two-Stroke Engine.gif
動弁機構を持たない一般的2ストローク・ガソリンエンジンの模式図。潤滑油は燃料に混合するか、もしくは独立配管で潤滑箇所に供給され、燃料と一緒に燃やされる。掃気圧力と予備圧縮の圧力は、いずれもクランクケース内のクランク回転による遠心力で得ている

2ストロークエンジンの行程は以下の通りである。

  1. 上昇行程: ピストンが上昇する間に新気の吸入と混合気の圧縮を行う。
  2. 下降行程: 混合気の爆発によりピストンが下降し、その後半で排気を行う。

ここまでの行程でクランクシャフトは1回転する。

歴史

ルノアール・エンジン

最初の2ストローク・エンジンは、1858年に開発されたガス燃料のルノアール・エンジンである。考案者はベルギー生まれのフランスの技術者ジャン=ジョゼフ・エティエンヌ・ルノアール (Jean Joseph Étienne Lenoir) で、石炭ベースの照明用ガス ("illuminating gas") を使い、電気点火装置 (double-acting electric spark-ignition) を用いて製作した。この発明は、1860年にフランスで特許を取得している。

小工場での定置動力等には蒸気機関より軽便・簡易なためある程度普及したが、後世の4ストローク・エンジンのような予備圧縮が為されないため、効率は著しく低かった。ルノアールは「圧力が高いと危険ではないか」と危惧していたからである。

このエンジンは実用型内燃機関の先駆となり、以後1860年代から1880年代にかけて各種の内燃機関開発を進展させる端緒となった。

クラーク式2ストロークエンジン

2ストロークのガソリンエンジンは、1878年に、スコットランド生まれのデュガルド・クラーク (Dugald Clark) が最初に製造し、1881年に英国特許を取得した。

既にこの時代には、圧縮行程を含む4ストロークのオットー・エンジンが実用化されており、燃料ガスの圧縮によって熱効率が高まることが認識されていた。

クラークのエンジンは、エンジン本体外部に独立したシリンダー式の圧縮装置・掃気装置を装備して4ストローク・エンジンの圧縮行程に代えたものであり、4ストロークエンジンに比肩する性能を出すことができたが、4ストロークエンジン同様に専用のバルブを設ける必要があるなど、構造がやや複雑であった。

エンジン本体の外部に圧縮・掃気装置を設ける手法は、のちにより構造簡略な回転式のスーパーチャージャーに置き換えられ、2ストローク、4ストロークの別なく利用されることになる。特に2ストローク・ディーゼルエンジンのメカニズムは、燃料供給とその点火手段を除けば原理的にはクラークの手法を踏襲していると言ってよい。

デイ式2ストロークエンジン

現在よく知られている形のシンプルな2ストローク・ガソリンエンジンは、1889年にロンドン生まれのジョゼフ・デイ (Joseph Day) が発明した。

「省略できる部品は全て省略し、4ストロークエンジンでは完全に行われていた各行程を、効率を犠牲にして簡略にした」ことで実現された。バルブすら持たない簡略構造故に、簡易さが要求される小型2ストロークエンジンの完成形となった。

その作動メカニズムは以下のような要素で成立しており、極めてユニークなものである。

  • シリンダーポート方式 シリンダー側面に吸排気それぞれの専用孔を開け、その閉塞・開放は上下に往復するピストンの側面を利用する。これによって、複雑なバルブ開閉機構がいっさい省略できた。
  • クランクケース圧縮および燃料ガス掃気
    • クランクシャフト回りのクランクケース部を密閉し、ピストンが上昇することでクランクケース内に生じる負圧を利用して、燃料ガスを導き入れた。そしてこのガスを、エンジン回転に伴うクランクシャフトの遠心力によって予備圧縮した。これで独立した圧縮装置も、4ストロークエンジンのような圧縮行程も不要になったが、クランクケースの密閉性確保には限度があり、圧縮比は4ストロークエンジンほど高く取れない。
    • 燃焼室内の点火でピストンが押し下げられると、予備圧縮された新しい燃料ガスがポート経由で燃焼室に押し込まれ、排気ガスを排気ポートから押し出す。これで4ストロークエンジンにおける掃気行程が不要になったが、まだ燃焼していない新しいガスの一部が排気ガスと共に排出されてしまう「吹き抜け」がどうしても生じ、その分は損失となる。
    • 上記の手段で、4ストロークエンジンの行程を2行程省略して2ストロークエンジンを成立させることができたが、反面、圧縮効率の低下や「吹き抜け」による燃料の無駄が生じる弱点もあった。これらは簡略化の代償と言うべきものであった。
  • 混合燃料潤滑 燃料にあらかじめ潤滑油を混合し、燃料を使用するだけで潤滑も為されるようにした。潤滑に関するメカニズムを省略できるという大きなメリットがあるが、潤滑油も燃料と共に燃えてしまうので、潤滑油の消費が不経済になる欠点がある。1960年代には混合燃料を使わず、専用の配管を用いて潤滑油を潤滑箇所に供給する手法も現れたが、潤滑油を燃やしてしまう根本に変わりはなかった。[1]

デイ式の2ストローク・エンジンは、小型の簡易なガソリンエンジンにおける決定的な方式となった。第一次世界大戦以降に広く用いられるようになり、特にDKWザックス (Fichtel & Sachs) などのドイツのメーカーにおいてその使用が顕著だった。小型のものを中心としたオートバイはもとより、1930年代以降は小型自動車にも盛んに使用されたが、1960年代以降自動車用から廃れ始め、1990年代になると2輪車でも排気ガス問題の面から4ストロークエンジンにその地位を譲るようになる。現在、2ストロークのガソリンエンジンが多用されているのは、極めて小型のエンジンでなければシステムの成立しにくい機器類(小型発電機、草刈機やチェーンソーなどの小型機器、可搬消防ポンプ、模型用エンジンなど)が主である。

2ストロークエンジンの特徴

  • 4ストロークエンジンに比べて運動エネルギーの消費が少ない(ピストン1往復分消費が少ない)。反対に燃焼効率は悪い。
  • 圧縮比が低く、爆発間隔も短いためストールしにくい。
  • ガソリンエンジンの場合、4ストロークエンジンに比べカム動弁機構が不要で、部品点数が少なく構造が単純となり、低コスト、と軽量な点がメリットとなる。
    ディーゼルエンジンや新世代のガソリンエンジンではカムとかさ状排気バルブを持つためこの限りではない。
  • ガソリンエンジンでは、混合気の逆流を防ぐための弁(ロータリーバルブ、リードバルブ)が設けられているものがある。この場合クランク室内で混合気を一次圧縮するため、クランク室は密閉構造であり、潤滑油の流入・流出経路を設けることができない。そのためクランク室内部は外部から潤滑油燃料を混合供給し潤滑する。2ストロークエンジン用オイルはシリンダー、クランク周りの潤滑、冷却の後、燃焼排出される。燃焼を前提として合成されているため、これを前提としていない4ストロークエンジン用オイルを転用するとカーボン堆積などのエンジン不調を招く。
  • 排気ガスがクリーンでない(完全に燃焼せず、未燃焼ガスの吹き抜けが起こるためCOHCが多い)。
    同じ理由で、4ストロークエンジン比で燃費が劣る
  • エンジン音が高く静粛性に乏しい(排気脈動による高周波音)。
  • ガソリンエンジンの場合、排気管の途中にエキスパンションチャンバーと呼ばれる部屋を設ける場合が多い。チャンバーのエンジン側は徐々に断面積を拡大するディフューザーとして排気流速を高める効果がある。またチャンバー後端の絞り込みにより発生する排気圧力波の反射を利用し、排気管内のガスの一部をシリンダー内に押し戻し、未燃焼ガスの流出を減らし、充填効率を高めることができる。
    排気脈動は回転数や負荷、排気温度などの条件により大きく変化するが、チャンバーの形状によってエンジン特性を決める、または変えることができる。チャンバーは各気筒ごとに一本ずつが望ましい。
    自動車・二輪車用エンジンは幅広い回転域を使用するが、チャンバーの形状は走行中は変えることが出来ないため、必然的に特定の回転域で充填効率が高まり、高トルクが得られる。この回転域を「パワーバンド」と称する。模型用エンジンにおいてはこの状態を称して「パイプインした」という。この特性を2ストロークエンジンの醍醐味として愛好する者も多い。
image:Image:Arbeitsweise Zweitakt.gif
チャンバー内部の反射波による充填率向上 燃焼ガス(黒)による混合ガス(緑)の押し戻し
  • ガソリンエンジンの場合、ピストンをはじめ、各ピンやジャーナル部に潤滑油を圧送するポンプを持たないものが多く、それらは高速道路の長い下り坂などで、高回転時にスロットルの全閉時間が長くなると潤滑ができなくなる。
    そのためにワンウェイクラッチを用いたフリーホイール機構が考案された。

2ストロークエンジンをとりまく近況

1970年代まではヨーロッパの小型車や日本の軽自動車を中心に2ストロークエンジンが数多く存在したが、排出ガス規制強化を原因に大幅に減少。本格的な4輪自動車では、1990年代初頭にトラバントが製造終了されたことでほぼ絶滅したと言える。日本を例に取れば、2007年現在、2ストロークエンジン搭載の国産四輪車ミニカーを除いて製造されていない。ヨーロッパでも事情は同様である。

二輪車においては、1980年以前には大排気量車にも搭載されていた。2000年ごろまでは主に250cc以下で採用されていたが、環境問題から4ストロークエンジンへの移行が進み、日本では2007年9月の排ガス規制で競技用車両以外の全ての2ストロークエンジン搭載車が消滅した。各国の他メーカーも概ね同様の状況にあり、4ストロークエンジンへの切り替えが世界的に進んでいる。主流はヨーロッパでモペッド向けに使用される例など、限定的なものである。

また、動力船(船外機水上オートバイ)では特性上2ストロークエンジンが主流であったが、近年は米国の厳しい環境・騒音規制に対応する必要もあり、4ストロークエンジンヤマハMJ-160FXなど)や環境対応型の2ストロークエンジン(直噴式(ボンバルディエSEADOO 3D-DIなど)又は電子制御式燃料噴射装置と触媒の併用式(ヤマハ MJ-GP1300R))への転換が進んでいる。日本国内でも、琵琶湖では「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」(琵琶湖ルール)により、従来型2ストロークエンジンの使用が禁止(経過措置あり)されるなどの取り組みがなされており、従来型2ストロークエンジンの使用は減少していくものと思われる。

欧米ではチェーンソーや芝刈り機/刈払機のエンジンにも排気ガス規制が及ぶようになり、燃焼の制御が困難な従来型2ストロークエンジンの使用機会は少なくなってきている。

分類

ガソリンを燃料とするもの

ガソリンを燃料とするものは、小出力の小型機器に用いられる。

2ストロークガソリン機関では、ガソリン空気混合気を吸気し、これを掃気に用いなければならないので、クランクケース内で一時圧縮を行う必要がある。すなわち、燃焼室側が圧縮行程の時、同時にピストン上昇による負圧を利用して吸気を行う。この吸気は燃焼室側が膨張行程でピストンが下降する際に同時に圧縮され(これが一時圧縮)、下死点付近で開いた掃気ポートより噴き出して膨張行程を終えた残留排ガスを排気ポートから追い出す(これが掃気)と同時に新気でシリンダ内を充填する。

掃気時にはシリンダ内の残留排ガスと新気の混合が避けられず、残留ガスを全て排気しようとすると、混合した新気の一部も一緒に排出されてしまう。

構造が簡単で軽量なわりに大きな出力が得られるが、掃気効率が悪く排気ガスに含まれる生ガスが多く、エンジンオイル燃料を一緒に燃焼させることから、排気ガスに混ざるオイルの量も4ストローク機関に比べて多くなりがちである。

  • スズキの軽自動車アルトは、トルコン式2速ATの運転性確保のためAUTOMATICのみ1981年まで、また、ジムニーは、雪道や不整地での運転性を確保するため1987年まで、それぞれ2ストロークエンジン車が併売されていた。
    このSJ30系ジムニーはマイクロカーを除くと日本最後の2ストロークエンジン車となった。
  • その特性から二輪車に多用されていたが、2000年施行の排気ガス規制により二輪車も4ストロークに移行しており、一部の原動機付自転車や汎用エンジンでしか見られなくなりつつある。
  • モーターショーにおいて、BMWトヨタは何度か2ストロークエンジンを搭載した自動車(ときにはエンジンのみ)を参考出品車として公開している。

これら新世代の2ストロークエンジンは、潤滑は4ストロークと同様で潤滑油を燃焼させることはなく、省燃費でクリーン、しかもパワフルなエンジンを目指している。

ガソリンを燃料とするものの潤滑

2ストロークガソリン機関では、その構造上クランクケース内に混合気を導入し一時圧縮を行う必要があるため、同じくクランクケース内にあるコンロッド大小端部やクランクの主ベアリングなどを、潤滑油をクランクケース内に保持したままで飛沫潤滑/給脂することができない(ガソリンで希釈されてしまう)。このため;

  • ガソリンに一定比率(1:25~1:50ほど)で2ストローク用の潤滑油を混合し、潤滑させた後に燃焼させる。
  • あらかじめ容器でガソリンと潤滑油を混合して用いる方式を混合給油、潤滑油を燃料とは別のタンクに貯蔵し、オイルポンプを通じてガソリンと混合させる方式を分離給油という。
  • 以前は全ての2ストロークエンジンが混合給油であったが、回転数や負荷の変化に細かく対応できないため、かじり焼き付き、未燃焼ガソリンなどの燃料が電極に付きリークしてしまうプラグかぶり等が避けられず、ダイハツの「オイルマチック」、スズキの「CCIS」など、回転数、アクセル開度、負荷の程度により混合比が自動可変し、クランクまわりのベアリングにも、オイルを圧送する方式が主流となった。現在では構造が簡単なチェーンソーなどの汎用エンジン以外、オートバイ、自動車、船外機などは分離給油となっている(ホームセンターなどでは、チェーンソー、刈払機用に、あらかじめ潤滑油が混合された缶入りガソリンが売られている)。
  • 排気中に燃え残りの潤滑油分が多く、排気ポートマフラー周辺が汚れるほか、排気ガスもクリーンなものにはなりにくい。このため、ジェットスキーや船外機などの水中排気小型船舶に用いるエンジンオイルには、生分解性に優れた植物エステル系オイルが用いられている。
  • 1980年代にはスクーター向けにイチゴやキンモクセイの香りがするエンジンオイルが市販されていたが、2006年現在でも出光興産からオレンジの香りがする「ゼプロオレンジ2」が発売されている。
  • ヤマハ発動機の純正2ストロークエンジンオイルが黒く濁っているのは、二硫化モリブデンを潤滑剤として配合しているためである。

軽油を燃料とするもの

ディーゼルエンジンでは小型から大型の機関が、自動車、軍用車両鉄道車両建設機械航空機船舶用として存在する。

対向ピストン式

ユンカース・Jumo

1926年ドイツの「ユンカース」と「クルップ」2社の協力により、上部のピストンとクランクシャフトをサイドロッドと呼ばれるコネクティングロッド(コンロッド)でつなぐ上下対向ピストン式(ダブルアクティング)と呼ばれる、画期的な2ストロークディーゼルエンジンが誕生した。

シリンダーヘッドが存在しないこのエンジンは、燃料供給は必然的に直接噴射となり、世界初の無気直噴エンジンとなった(無気とはエアインジェクション無しで、圧縮行程のシリンダー内に高圧で燃料のみを噴射し、霧化する方式)。

image:Image:Jumo205 cutview 02.jpg
Jumo 205 カットビュー

上下対向式はその後、ギア連結の上下2クランクシャフト方式へと進化、さらなる高回転化が可能となり、航空機に搭載された。
6シリンダー、12ピストン、排気量16.6Lのユンカース Jumo205 (ユモ205型)型は熟成を重ね、後継の Jumo207 では1,000ps(745.7kw)/3,000rpm、過給器付き Jumo205 では1,300PSにも達した。

日本では1936年に「日本デイゼル」がユンカース/クルップの特許を取得して、サイドロッド駆動の上下対向式エンジンの生産を開始。会社名を採ってND型と名付けられた。日本デイゼルはその後「鐘淵デイゼル」へ社名を変え、製品名もKD型へと変えられた。KD型は、単気筒から4気筒までのモジュラー設計で、気筒数を表す数字を付けられたKD1型(1362cc)からKD4型(5448cc)とKD4のボアアップ版のKD5型(4気筒 7540cc)をラインナップしていた。

第二次世界大戦終戦直後の民生産業(鐘淵デイゼルから1946年改称)製KDエンジンは、1940年代後期の日本製高速ディーゼルとしては最強の部類に属したが、反面「背が高い、騒音が高い、(燃費・オイル消費や構造の複雑さから)維持費が高い」という意味で「三高(さんだか)エンジン」と呼ばれる難物であった。サイドロッド式は最高回転数が1,500rpm程と低く、1951年発表の改良KD3型(3気筒 4086cc)では、120PS(88.3kw)/1,800rpmまで高められたが、それ以上の高回転化(高出力化)は難しく、競合メーカーの生産する簡潔な設計の4ストローク高速ディーゼル機関に対抗するにも、進化の限界を迎えていた。

ネイピア・デルティック
image:Image:Napier deltic animation.gif
デルティックエンジンのアニメーション模式図
緑色は吸気、紫色は排気を示す。

数々の異型エンジンの「発明」で知られる、ネイピア・アンド・サン (Napier & Son) が送り出した、3クランク対向ピストンエンジン。高度なメカニズムの「クルップ・ユンカース」の上下対向ピストン式直列6気筒・12ピストンをさらに3つ組み合わせ、三角シリンダーの18気筒・36ピストンとした、にわかには信じ難い「奇想天外エンジン」。デルティックとは、三角形を表すデルタからの造語。

向かい合った2つのピストンの位相差で掃気を行う点はユンカース・Jumoと同じであるが、3本のクランクシャフトのうち、左図では最下部となっている1本のみ、他の2本と逆回転となる。すべてのクランクシャフトはギアトレーンで連結され、タイミングのずれを防いでおり、同じロウ(列)の3つのバンクの爆発には時間差を設けてある。

もともとはイギリス海軍の高速魚雷艇PTボート)と航空機用のエンジンとして1944年から開発が始まり、1950年の完成と同時に予定どおりPTボートに搭載され、現在も稼動中のほか、英国国有鉄道 (British Rail) のクラス55ディーゼル機関車にも採用されたが、こちらはトラブルが多く、早期に現役を引退した。

image:Image:Rosa Parks Bus.jpg
GMC トランジット
1948年製 TDH-3610
写真はヘンリー・フォード博物館に展示されている、公民権運動の活動家、ローザ・パークスが逮捕されるきっかけになったバス。
image:Image:FHI Fuji-go 001.JPG
富士産業・ふじ号 (1954年)
この個体のエンジンは民生産業のクルップ型KD2が縦置きされている

ユニフロー・スカベンジング・ディーゼルエンジン(UD)

通常クランク型においても、1937年38年と、「GM」の一部門であった EMDデトロイト・ディーゼルが、スーパーチャージャーを使った「ユニフロー掃気方式」の、鉄道用と自動車用の2ストロークディーゼルエンジンを相次いで発表、生産を開始する。

V型12気筒エンジンを2基搭載したEMDのディーゼル機関車であるE-ユニットF-ユニットは、共に大ヒットとなり、戦後も長く生産が続き、「ドッグノーズ」はアメリカ型機関車を代表する顔となった。

一方、バスの場合は、4ストロークに比べ、コンパクトで高出力な点を生かし、直列6気筒エンジンをリアに横置きに搭載し、トランスミッションを車体に対して約45度に配置したアングルドライブパッケージが考案された。

1940年から生産が開始された「トランジット」はバスの新時代を拓き、以降、爆発的に普及し、1969年まで生産が続けられた。

日本の民生産業は、「民生デイゼル」として1950年に独立改組していたが、性能向上の限界に来ていたクルップ式KDエンジンに代わり、今度はGMのライセンスによる、スーパーチャージャー頭上排気弁(2バルブ、後4バルブ)によるユニフロー掃気の2ストロークディーゼル、「ユニフロー・スカベンジング・ディーゼルエンジン (Uniflow-scavenging Diesel-engine) 」を採用、1955年にこの方式の頭文字をとったUD型を発表した。

UD型は3・4・5・6気筒の直列型、8・12気筒のV型ともモジュラー設計であり、エンジン型式には「UD4型」のように気筒数が入れられていた。やはり燃費の悪さという弱点があったが、4ストロークのPD型発売後も1974年まで同社のトラック・バスにはUD型エンジンが搭載され、「UD」は一時、日本での高速型2ストロークディーゼルの代名詞となった。UD型エンジンは日産ディーゼル車の「UDマーク」の由来となっており、全てのエンジンが4ストロークとなった今でも愛着を込めて用いられている。戦前、戦後を通じ、一貫して2ストローク ディーゼルエンジンを作り続けた日産ディーゼルであるが、国状を反映し、戦前はドイツ、戦後はアメリカの影響を強く受けていたことは興味深い。

軍用

数としては少ないが陸上自衛隊90式戦車のエンジンに採用されている。

将来

将来のエンジンとして、ダイハツは、東京モーターショー1999年2003年)に「2ストロークユニフローディーゼルエンジン」を出品した。2003年発表の軽自動車用エンジンは、排気ガスの新長期規制をクリアした上で超低燃費であると伝えられており、近い将来の商品化が見込まれている(2004年現在)。

重油を燃料とするもの

大型機関

船舶用など、回転数が60~120rpmと極低速な大型機関では、毎回爆発である2ストロークのメリットは大きく、ユニフロー式2ストロークディーゼルが主流となっている。シリンダーライナー下部の掃気ポートから給気し、燃焼室上部の排気弁から排気するユニフロー方式である。

ディーゼルエンジンは元々熱効率が高いが、船舶用の低速ディーゼルエンジンは理論上のディーゼルサイクルに近い燃焼サイクルが実現できる。また低速であるため、2ストロークエンジンでは通常実現しにくいターボチャージャーを装備して機能させることができる。同時にインタークーラーも装備されているのが一般的である。排気ガスボイラーを装備し、排熱の一部を回収、再利用する例も多い。これらの総合的なシステムによって、熱効率50%を超過する高効率なエンジンが実現されており、現在最も効率の良いエンジンの部類に入る。

またこの種のエンジンは、粗悪なC重油でも予備加熱によって使用可能で、この面でも経費を抑えることができる。

大型商船のほか、内燃力発電の機関としても利用されている。始動はほとんどの場合、圧縮空気によって行われる。

注釈

  1. ^ 初期のガソリンエンジンは4ストローク形でもオイル消費が激しかったので、混合燃料によるオイル使い捨てはさほど問題にされなかったとも考えられるが、後年、潤滑油の消耗や排気ガス浄化への影響が問題視されることになる。

関連項目


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2008年4月8日 02:04 版 改訂履歴
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