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有機エレクトロルミネッセンス

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有機EL から転送)

有機エレクトロルミネッセンス((Organic Electro-Luminescence、OEL、有機EL)、有機発光ダイオード(Organic light-emitting diode、OLED)あるいは発光ポリマー(Light Emitting Polymer、LEP))とは、発光層が有機化合物から成る発光ダイオード(LED)のことである。有機化合物中に注入された電子正孔の再結合によって生じた励起子(エキシトン)によって発光する現象を利用している。日本では伝統的に有機ELと呼ばれることが多い。

有機ELディスプレイは、液晶やプラズマディスプレイなどに代わる次候補の薄型ディスプレイとして期待されており、その市場規模は2012年には数千億円から1兆円を超えるとも言われている[1][2][3]。現在でも、携帯電話などの携帯機器やカーオーディオに有機ELディスプレイが使用されている。(2008年段階)

目次

有機ELの構造

現在もっともよく用いられている有機EL積層機能分離型デバイス発光素子[4]1987年Eastman Kodak社C.W.Tang, S.A.VanSlykeらによって発明された。

有機ELディスプレイは、各ドットに発光素子が構成されている。その発光素子は金属等の陰電極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/ITO等の陽電極そしてガラス板や透明のプラスチック板などの基盤よりなる[5]

こうしたサンドイッチ状の構造はヘテロ構造と呼ばれ、電子と正孔をそれぞれ別の層に閉じ込めることによって効率的な反応を起こすことができる。各層の材料にはジアミンアントラセン、金属錯体などの有機物が使用されている。

電極間の各層の厚さは数nmから数百nmであり、全体で1µm以下程度の厚さしかない。また、基盤もフレキシブルなプラスチック板等を利用することにより、フレキシブル(曲げられる)ディスプレイや照明の製造も可能である。

有機ELの発光原理

発光の原理としては、陰電極および陽電極に電圧をかけることにより各々から電子と正孔を注入する。注入された電子と正孔がそれぞれの電子輸送層・正孔輸送層を通過し、発光層で結合する。

結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起される。その励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する。励起状態(一重項)からそのまま基底状態に戻る発光が蛍光であり一重項状態からややエネルギー準位の低い三重項状態を経由し、基底状態に戻る際の発光を利用すればりん光である。励起しても光に上手く利用できないエネルギーは無放射失活(熱失活)する。

陰電極はアルミニウム等の金属を使い陽電極はITOなどの透明な物質を使うため、陰電極をバックミラーとし透明電極と基板(ガラス板やプラスチック板など)を透過するため光が素子から出る(ボトムエミッション構造)。

発光材料

有機EL素子の主要部は発光層であるが、その発光層に使用される発光材料には様々な材料が試されてきた。それらは大きく高分子と低分子のどちらかに分けられる。ポリマー状の分子を用いたものが高分子材料であり、それ以外の分子を用いたものが低分子材料である[6]

低分子材料
低分子材料は、有機材料を蒸着により薄膜化・積層化することによりデバイスを作成している。前述の発光原理により蛍光材料とりん光材料に大別できる。
蛍光材料は、前述一重項発光を利用した材料で、光の三原色となる赤・緑・青色ともコスト・寿命・耐久性・成膜性に充分な要件を持った材料が揃っている。
りん光材料は前述の三重項発光を利用した材料であり、原理的に蛍光材料よりはるかに発光効率がよい。しかしりん光材料は寿命、電流増加時の効率低下(Triplet-triplet annihilation)、精製の困難さ、熱耐性の点で蛍光材料ほどの普及はしていない。特に青色は、まだ十分な特性を持つ材料が開発されておらず、実用化には至っていない。各社がこの青色りん光材料の開発競争を続けている状況である(2008年段階)。
高分子材料と比したとき、低分子材料の欠点として製造技術が上げられる。デバイスにする際、薄膜製造(後述)には透明のガラス基板やプラスチック基板に蒸着させる方法が一般的である。通常のシャドウマスクを用いた色分け成膜技術はシャドウマスクの精度、熱膨張の観点から大型化が困難である。現状の有機ELディスプレイが小型のものに限られるのはそのためである(2008年段階)。
高分子材料
高分子材料はそれをインクとした印刷技術の応用により大量、安価、大型な有機ELデバイスが容易に生産できると言われ、次世代の材料として日本国内の大手印刷会社・化学企業・電気家電メーカー等で研究開発が続けられている。しかし高分子材料で有機EL素子を作成する場合、層間の材料同士が溶解しやすく、有機ELに不可欠な前述のヘテロ構造を持たせることが非常に困難である。そのため単層ないし少数の層の素子構造しか出来ず、多くの機能(各層の機能)をこれら単数または少数の層、および材料に持たせる必要がある。したがって高分子材料の分子設計への要求は低分子材料に較べて非常に高くなり、低分子材料に較べて高分子材料の開発は大幅に遅れている(2008年段階)。

製膜技術

真空蒸着法
真空蒸着法は、主に低分子化合物を材料とする有機EL素子の薄膜を製造する際に用いる技術である。真空のチャンバー内で、原料化合物を加熱し蒸発させる。すると真空チャンバー内に置かれた基板の上に、化合物が薄く(数nm~数百nm)蒸着する。赤、緑、青と塗り分ける際はスリットを用いる[7]前節の通り、この技術での製造では製造基盤の大型化は困難であるが、ほとんどの有機EL商品が真空蒸着法で製造されている。
印刷技術法
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駆動方式

液晶ディスプレイと同様、ドットマトリクス表示の多数の画素にそれぞれ電極の配線をしようとしても基板周縁部にすべての端子が取り出せなくなることから、TFT(薄膜トランジスタ)などのアクティブ素子を各画素に配置して駆動するか(アクティブマトリクス駆動)、直交させたストライプ電極にタイミングを合わせて電流を流すことでその交点の各画素を順次駆動するか(パッシブマトリクス駆動)のどちらかの駆動方式が使われる。

パッシブマトリクス
パッシブマトリクス駆動は構造は単純だが瞬間的に光らせるのは1ラインであるため、その瞬間の発光輝度を大きくしている。よって素子の寿命が短くなってしまう欠点がある。また、パッシブ方式では(単純マトリクス駆動の液晶ディスプレイと同様)クロストークによる画質低下が問題になる[8]。液晶ではSTN型がパッシブマトリクスに対応する。
アクティブマトリクス
パッシブマトリクス駆動の欠点は大型化でより深刻になるため、大型パネルにはアクティブマトリクス駆動が採用される傾向にある。しかし、同様の事情がある液晶ディスプレイより複雑な回路[9]を組み込む必要がある場合が多い。液晶では、TFT型がアクティブマトリクスに対応する。

カラー化方式

有機ELディスプレイのカラー化方式には、3色方式、色変換方式、カラーフィルタ方式の3種類ある。

3色方式
赤色、緑色、青色の発光層をそれぞれ用いる方式である。色純度を向上させるため、カラーフィルターを併用する場合もある。
色変換方式
青色発光層を用い、その発光の一部を色変換層を通すことにより赤色、緑色を得る方式である。波長の短い色への色変換は困難であり、また青色材料の開発も赤、緑に比べ難しく十分な材料も乏しいため、青色LEDに希土類錯体などの色変換材料を組み合わせた白色照明の開発も行われている[10]
カラーフィルタ方式
白色発光層を用い、カラーフィルタを通すことで赤色、緑色、青色を得る方式である。

有機ELディスプレイの特徴

有機ELのディスプレイとしての特徴は実用化が進んでいる液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどとの対比で語られることが多い。

応答速度[11]
液晶ディスプレイでは液晶の分子の方向を変えることで輝度を変えているため、応答速度が鈍く動画再生などで問題になる。それに対し有機ELは励起子の発光時間が非常に早く電流を変化させれば輝度が瞬時に変化するので、非常に応答速度が早い。また、液晶ディスプレイでは応答速度が環境温度に依存し、低温では応答速度がさらに鈍くなる。しかし有機ELディスプレイでは低温でも応答速度は変わらない。
視野角
液晶のように見る方向によって階調が変わってしまうことがなく、またコントラストの低下も低く、視野角は180度に近い。プリズムシートで集光して表面輝度を向上させている液晶ディスプレイとは異なりランバート分布に近い発光分布を持つが、マイクロキャビティー効果を用いることで集光させる事も可能である。
解像度
現在の有機ELディスプレイは解像度がシャドウマスクの精度およびそのプロセスで制限されている。現在、シャドウマスク以外の手法、ホワイト+カラーフィルター方式レーザー熱転写方式LITI法[12]:3M)、レーザー再蒸着方式RIST法[13]:コダック、LIPS法:ソニー。違いはドナーシートの材質)と言ったシャドウマスクの制限を伴わない技術が開発されている。また画素には液晶の場合1個以上、有機ELの場合2個以上のTFTが必要な為、高解像度ディスプレイの場合制約となりうるが、トップエミッション[14][15]方式の開発により制約は無くなりつつある。これらの進歩の結果、すでに300ppiの試作品も現れている。また3色の発光層を縦に重ねることによって解像度を高くできる可能性もあるとされている。
発色
有機ELは原理的に共役結合の実効長を分子構造設計によって変化させられる為、任意のエネルギーの励起子すなわち任意の波長の光を取り出せる。これにより、色再現域が広いフルカラーディスプレイが可能である。また、特定の色のみを発光する素子も作れる。
駆動電圧・消費電力・発光効率
液晶ディスプレイのようにバックライトをカラーフィルタに通して色を出すのではなく色の付いた光を直接出せるためエネルギーの変換効率を高くできる可能性がある。また、プラズマディスプレイのような放電発光ではなく有機半導体内の励起子により発光するので発光そのものに必要な電圧も数V程度と低い。また有機ELの発光効率も近年飛躍的に向上している。さらに発光材料として蛍光材料が広く用いられているが原理的に効率の高いりん光材料の開発が進んでおり、さらなる高効率化が期待できる。
コントラスト比
素子の自発光であるため、発光を止めることで黒が明確に表現できるため、測定が困難なほどの高コントラスト比を達成できる。液晶テレビは1000:1程度に対し、ソニーの有機ELテレビはXEL-1のコントラスト比が100万:1と公称[16]
磁気の影響
ブラウン管とは異なり磁気の影響を受けない。
サイズ
ガラス基板2枚で挟み込む構造の液晶と違い基板は1枚であり、加えてバックライトが不要であるため薄型化が可能とされる。発光層の保護のための封止層が課題であるが無機および有機の薄膜を用いたべた封止方式が開発されており、これによって将来は封止層が必要無くなるともいわれている。
フレキシブル
プラスチックなどの基板を使った柔らかくて折り曲げることができるディスプレイの試作品が発表されている。しかし、プラスチックシートやステンレスシートを基板に使用すると酸素などを透過して発光体を劣化させ寿命を短くしてしまうため、製品化にはフレキシブルな封止層あるいは封止が不要な技術が必要となる。
寿命
発光体の有機物は通電及び酸素や湿気の影響により徐々に劣化して輝度が低下する。この問題は発光体の研究と空気から遮断する封止技術により急速に改善されてきており、最新の各社製品では50000時間以上といったモバイル機器には十分な寿命を確保できる水準に達してきている。
コスト
原理的には液晶ディスプレイより単純な構造が可能であるため、液晶ディスプレイより製造コストが下がる事が期待されている。
大型化
大型化するとドット落ちや全体の均質化などの問題により、歩留まりが悪化する。また、大型化で課題の多いパッシブ駆動を避けてアクティブ駆動を採用するためには多数の製造技術と大きな設備投資が必要になる。液晶の大型化と同様、着実な不良原因の解析と対策が必要になると思われる。発光層の膜厚はTFT薄膜デバイスより薄い為、パーティクルの削減が重要な課題の一つである。現在はアクティブ駆動用バックプレーンとして低温多結晶シリコン(ポリシリコン、LTPSとも言われる)が製品として用いられているが低コスト化、大画面化の為にアモルファスシリコン微結晶シリコン等の代替技術を用いた方法が提唱されている[17][18]

商業利用

有機エレクトロルミネッセンス (商品)を参照

参考文献

  • 城戸淳二 『有機ELのすべて』日本実業出版社、ISBN 4-534-03541-1
  • 時任静士、安達千波矢、村田英幸 『有機ELディスプレイ』 オーム社、ISBN 4-274-03631-6

脚注

  1. ^ 「有機エレクトロニクス市場、「年平均成長率70%で成長」」『EE Times Japan』2006年12月20日
  2. ^ 「有機EL市場、2014年には155億ドル規模に」『IT Pro』2007年2月20日
  3. ^ 「2006年は有機EL市場の成長が大幅減速,携帯機器向け小型ディスプレイの需要が一巡」『日経エレクトロニクス』(Tech-On)2007年10月1日
  4. ^ C.W.Tang, S.A.VanSlyke, "Organic electroluminescent diodes," .Appl. Phys. Lett., Vol.51(12),(1987), pp.913-915.
  5. ^ 電子・正孔注入層や電子・正孔輸送層が無い種類もある。
  6. ^ 他に中間のオリゴマー(デンドリマー)を用いた種類もあるが、一般的な方法ではない。
  7. ^ スプレーで正確に文字を書く際に、スリットを用いて塗り分けるように。
  8. ^ ただし有機EL素子はダイオードであるので、単純マトリクス駆動の液晶ディスプレイよりクロストーク等の面で画質的には優れる。
  9. ^ 液晶ディスプレイの画素回路は単なるスイッチの作用をすれば良いため各画素に一つのトランジスタと一つのコンデンサで済むが、有機ELディスプレイの画素回路は発光素子に通電する電流を厳密に制御する必要があり、各画素に2個以上のトランジスタによる電流制御回路が組み込まれる。また画素トランジスタの微妙な特性バラツキが画質に反映されるため、バラツキ補正回路を組み込む例が多い。なお、トランジスタのばらつきの影響を受けない駆動方式も開発されている。
  10. ^ 岩永寛規、相賀史彦、天野昌夫「新規透明蛍光体の創製と発光デバイスへの応用」東芝レビュー、2007年、Vol.62、No.5[1]
  11. ^ 画面の色が「黒→白→黒」と変化するのにかかる時間。単位は「ms(ミリセカンド)」で1msは1000分の1秒。
  12. ^ M.Wolk et al, "Laser thermal patterning of OLED materials", SPIE Proceeding, Vol.5519, pp.12-23, 2004
  13. ^ M.Boroson et al., "Non-Contact OLED Color Patterning by Radiation-Induced Sublimation Transfer(RIST)", SID2005 Digest, p.972, 2005
  14. ^ W.Graupner et al., "High Resolution Color Organic Light Emitting Diode Microdisplay Fabrication Method", SPIE Proceedings 4207, 11-19(2000)
  15. ^ T.Sasaoka et al., "A 13.0-inch AM-OLED Display with Top Emitting Structure and Adaptive Current Mode Programmed Pixel Circuit(TAC)," SID Digest, Vol.32, pp.384-387, June 2001
  16. ^ XEL-1商品情報-ソニー株式会社
  17. ^ T.Tsujimura et al., "A 20-inch OLED Display Driven by Super-Amorphous-Silicon Technology," SID Digest, Vol.34, pp.6-9, May 2003
  18. ^ F.Templier et al, "Development of nanocrystalline silicon thin film transistors with low-leakage and high stability for AMOLED displays", IDMC2006 Digest, p.1705, 2006

関連項目

外部リンク


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2008年4月8日 02:04 版 改訂履歴
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